フレイルとは何か?高齢者に多い症状と予防法について
「フレイル」という言葉をご存じでしょうか?
あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、高齢化の進む日本では注目されている言葉です。「心と体の活力が低下し、要介護になりやすい状態のこと」「健康と介護の間の、虚弱な状態のこと」を指します。
早く対策を取ることで、健康でいる時間を長くすることが可能です。ここでは、フレイルについて解説するとともに、効果的な予防法をご紹介します。
フレイルとは?
まずは、フレイルについて解説します。ご自身がフレイルに該当するかどうかもチェックしてみましょう。
フレイルは「介護の手前」
フレイルという単語には、「か弱い」「壊れやすい」といった意味があります。健康を保つために、若い頃とは違う配慮が必要な状態が「フレイル」です。何もしなければ介護が必要な状態へと進んでしまいますが、対応次第では健康を取り戻せるかもしれません。
フレイルの予防は、「介護の予防」「健康寿命の延長」に繋がります。早いうちから対策に取り組み、元気な生活を長く送れるようにしませんか?
フレイルチェックをしよう
では、実際にご自身がフレイルになっているかどうかのチェックをしましょう。
<5項目でフレイルチェック>
以下の5項目のうち、3項目以上当てはまれば「フレイル」、1項目または2項目だけ当てはまれば「プレフレイル(フレイル予備軍)」です。
①ダイエットをしていないのに、体重が減ってきた(6か月で2-3kg以上)
②前より歩く速度が遅くなってきた
③運動を週1回以上できていない
④5分前のことが思い出せないことがある
⑤わけもなく疲れた感じがする
<指輪っかテスト>
実際に筋肉量が不足しているかどうかを簡易的にチェックする方法もあります。 「指輪っかテスト」をやってみましょう。
足の裏をしっかり床につけ、膝が90度になるように椅子に座ります。
両手の親指と人差し指を使って「輪っか」の形を作ります。
利き足と逆側のふくらはぎの太い部分を「輪っか」で囲みます。
ふくらはぎと輪っかの間に隙間ができる方は、筋肉量が少ないという指標になります。
フレイルの予防
フレイルの予防・改善のためには、「社会参加・栄養・運動」の3本柱を整えることが大切です。
それぞれがなぜ大切なのか、具体的に何をしたらよいのかご紹介します。「自分の生活に足りていないな」と思う項目があれば、対策を取り入れてみてください。
社会参加
まず大切なのは、社会参加です。人と関わり、その中で自分の役割を持ちましょう。
社会とのつながりを失うことがフレイルの入り口になってしまうことがわかっています。社会とのつながりは長生きの秘訣、と言い換えることもできるでしょう。社会から孤立してしまうことを特に「社会的フレイル」と呼びます。
なぜ、高齢になると社会的フレイルが問題になるのでしょうか。
仕事や子育てがひと段落すると、今までの「会社員、お母さん、お父さん」といった役割がなくなります。そうすると、「何をしたらいいかわからない」「趣味もないし、やることがない」と手持ち無沙汰になってしまう方が少なくありません。 定年を過ぎると、「若い頃に比べて疲れやすくなって、外出するのが億劫」という方も増えてきます。50代〜60代は、何も意識しなければ社会との繋がりが弱くなりやすい時期なのです。
新しい人間関係・友人関係を作り、家庭の中で役割を持つことが、社会的フレイルの予防に繋がります。
ほとんど外出しない高齢者は、毎日外出する高齢者と比べて、歩行が不自由になるリスクが4倍、認知機能障害のリスクが3.5倍にも跳ね上がることがわかっています。これはたいへん大きな差といえるでしょう。
特に用事がなくても、こまめに外へ出る習慣をつけませんか?会社員時代は忙しくてネットスーパーを活用していたという方も、実店舗まで歩いて行くようにしてはいかがでしょうか。
社会参加の案として、以下を参考にしてみてください。
スーパーやコンビニなどへ出かける
家族や友人と食事する
地域のボランティア活動に参加する
スポーツジムや運動教室に通う
囲碁・将棋・手芸などサークル活動を始めてみる
栄養
40〜50代までは、生活習慣病予防で「痩せた方がよい」と耳にタコができるほど言われてきたかもしれません。ですが、65歳以上の方は筋肉量の低下や低栄養による悪影響を受けやすいため、「BMI=21.5以上」が目標とされています。「痩せすぎない」を意識するということです。
※BMI=21.5 の目安
身長145cm体重45kg 150cm48kg 155cm52kg 160cm55kg 165cm58㎏ 170cm体重62kg
お年を召されてくると、食が細くなったり、あっさりしたものを好むようになったりする影響でタンパク質が不足しがちです。肉や魚、大豆、卵などを意識的に取り入れましょう。おやつをチーズやヨーグルトにするのもよいです。
タンパク質が不足すると、筋肉量の低下に繋がります。ただし、腎臓病などでタンパク質の量を制限されている場合には、医師や栄養士などの指示に従ってください。
また、歯応えのあるものをよく噛んで食べることも、健康にとって重要です。噛む力が衰えてしまえば、食事が取れなくなることもあります。切り干し大根や舞茸、キャベツなど、歯応えのあるものを取り入れてみましょう。
「むせが気になる!」という方は、飲み込む筋力(嚥下機能)が低下し始めているのかもしれません。飲み込みに関するフレイルは、特に「オーラルフレイル」と呼ばれることもあります。飲み込みに関わる筋肉量の低下や筋力の低下だけでなく、加齢に伴って口の中が乾燥することも関係する現象です。
オーラルフレイルの予防のためには、「パタカラ体操」をおすすめします。飲み込みについては、耳鼻科などで専門的な検査をすることもできます。
<パタカラ体操>
「パパパ、タタタ、カカカ、ラララ」と大きめの声で5回繰り返す
「パタカラ、パタカラ、パタカラ、パタカラ、パタカラ」と繰り返す
早口言葉のように急いで「パタカラ体操」をする必要はありません。1つ1つの文字をゆっくり・はっきり発音することを意識しましょう。
「パ」は唇をしっかり閉めるのがポイントです。唇を締める筋力を鍛え、食べ物をこぼさないようにする効果があります。
「タ」は舌をしっかり上顎にくっつけましょう。噛むとき・飲み込むときに使う下の筋肉を鍛えます。
「カ」は喉の奥が少し閉じるのを感じてください。しっかり飲み込む練習になります。
「ラ」の発音では、舌が少しまるまり、前歯の裏に触れます。この動きで、噛んだ食べ物を口の中でまとめるのに必要な筋肉が鍛えられます。
そして、歯医者を定期受診するようにしてください。
オーラルフレイルを予防するために、口内のメンテナンスをおこないましょう。口内をきれいに保つことで、歯周病予防だけでく
、肺炎予防にも繋がります。
入れ歯を作っている方は、定期的にメンテナンスが必要です。何年かすると、歯茎が痩せるなどの影響で入れ歯が合わなくなってくることがあります。合わない入れ歯を使っていると十分に噛む力を発揮できず、オーラルフレイルが進んでしまうかもしれません。
運動
運動をおこない、筋力の維持を目指しましょう。
「運動」と聞いて、もう嫌になってしまった方もいるかもしれませんね。ですが、諦めずにもう少しお付き合いください。スポーツをしたり、ジムでウェイトトレーニングをしてプロテインを飲んだり…なんてことは必要ありません。日常生活の延長でできることから始めればよいのです。
「5項目のフレイルチェッ
ク」にあった「疲れやすい/歩くのが遅い」というのは、どちらも筋肉量の減少を反映した自覚症状です。筋力がなくなって疲れやすくなるというのは、外出するのが億劫になり、社会的フレイルにも繋がる…という悪循環の引き金といえます。
そうならないために、日常生活に少しだけプラスの運動を取り入れて、筋肉量を減らさないようにしましょう。
筋肉量を維持するための「筋肉トレーニング」と、筋肉を効率的に使えるようにするための「有酸素運動」の組み合わせがおすすめです
。
筋肉トレーニングは、以下のようなものをおこなってみましょう。
スクワット
足を肩幅に開き、ゆっくりと息を吸いながら腰を落とします。下半身の筋肉を鍛えるトレーニングです。10回程度おこないます。足腰に自信がない方は、椅子の背もたれなどに手を置いて安全におこないましょう。
もも上げ
イスに浅く腰掛け背筋を伸ばした状態で、片足ずつ膝をゆっくり胸に近づけます。このとき、上体を軽くかがめましょう。両足を5回ずつおこないます。太ももを動かす筋肉や腹筋を鍛えるトレーニングです。
有酸素運動としては、ランニングや水泳などさまざまな種類がありますが、取り入れやすいものとしてウォーキングをおすすめします。
1日8,000歩、1週間で56,000歩を目標に、日々の生活の中で少しずつ歩く距離を増やしていきましょう。近所への買い物は車ではなく徒歩で、エレベーターではなく階段で、家の周りを少し散歩など、どんな方法でもかまいません。「ウォーキングのための時間」を取らなくてもいいのです。「チリも積もれば山となる」の精神で、歩数を稼いでください。
まとめ
今回は、高齢になると心配な「フレイル」がどのようなものか、さらに、予防のための対策についてお伝えしました。
加齢に伴って、少しずつ体は変化していくものです。介護が必要になる時期を少しでも遅らせるために、今回ご紹介した対策を取り入れてみてください。
・厚生労働省. 通いの場 https://kayoinoba.mhlw.go.jp/
・公益社団法人日本歯科医師会. オーラルフレイル https://www.jda.or.jp/pdf/oral_frail_leaflet_web.pdf
・久野譜也 著. 100歳まで動ける体になる「筋リハ」
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